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EternalCurse |
Story-7.邂逅 | |||||||
ブランシュール夫人よりエステリアとシエルが案内されたのは、随分と広い寝室だった。 とはいえ、ここまで辿り着くにはひと悶着あった。 相変わらず忠義厚き侍女シエルが、『神子様と同じ部屋で眠るなど、恐れ多い』と最後まで抵抗したのである。眠気を催してきたエステリアにとって、この口論はひとたまりもなかったが、夫人も負けじと、エステリアとシエルのどちらも大切な自分の客人だと主張し続け、なんとかシエルを根負けさせたのである。 「本当によかったんですか? 私のような者と……」 ようやく床に就いたシエルがすぐ隣の寝台で休むエステリアに伺った。やはり侍女という身分でありながら、神子と同室ということに気兼ねしているのだろう。 「ううん。貴方が隣に居てくれた方が心強いわ。これからはこうして同じ部屋で眠ることだって、沢山あるはずですもの」 エステリアはシエルに微笑みかけると、天井を見上げた。 「本当にすごいお屋敷。とても広くて、寝台も大きくて、あの窓からは月だっていつもより近くに見えるもの。集落にいる頃には考えられなかった環境だわ」 呟いた声は故郷を懐かしむような、そんな口調だった。 「集落を離れられて……やはり寂しいですか?」 「そんな気もするけど、正直な気持ちは……よくわからないの。あの場所には、楽しい思い出もあるけど――辛くて嫌な思い出も沢山詰まってるから」 そこまで言うと、エステリアは苦笑いをしながらシエルの方を向いた。 「私……本当は神子には向いてないのよ」 神子に限らず、巫女や聖女と言われる者達は、心に邪な感情を抱くことを許されてはいない。憎しみも覚えてはいけない。 だが自分の心の中には、母親への忌まわしい感情、異父妹への複雑な想い――こういった負の感情が少なからず渦巻いている。そんな自分が神子に選ばれたこと自体、何かの間違いではないかと思うことさえある。 「向く、向いてないということよりも、成し遂げることの方が大事ですわ。大丈夫です。私がお守りしますから」 「ありがとう」 シエルの言葉にエステリアは軽く頷くと、ゆっくりと瞼を閉じた。 * 辺り一帯は雪に覆われ、樹氷のついた木々が取り囲む冬の湖の前にエステリアは居た。 いや、厳密には『彼女』の中に居るといった方が正しいのかもしれない。 これは夢である――その自覚はあった。……にも関わらず、肌を撫でる風の冷たさは、現実と同じように感じることができる。一面を彩る純白の世界は、いつも見ていた凄惨な赤い悪夢に比べると、随分と対照的な光景に思えた。 視線を足元に落とせば、華奢な足に赤みが差し、指先は腫れている。 エステリアはそこで初めて『彼女』が素足でこの雪道を歩き、ここまでたどり着いたことを知った。 足の感覚はほとんど残っていない。『彼女』が何を思ってここに立っているのか……『彼女』の中に同居するエステリアでさえ、その心の内の全てを知ることはできなかった。 ただ『彼女』の心の中に一際強い決意がある……それだけは感じ取ることができた。 しばらくすると、『彼女』はおもむろに、湖へと入っていく。湖の中に足を踏み入れたとき、麻痺していたはずの足の感覚が急に戻ってきた。 氷の張る湖水から刺されるような痛みを感じながらも、『彼女』は少しずつその中を進んでいく。 それは何かの儀式、あるいは禊のようにも思えた。 ――私は、…………から 『彼女』が小さく呟いた。エステリアははっきりとした言葉を聞き取ることはできなかったが、 『彼女』の心もまた凍てついたこの湖のように、静かにそして固く閉ざされたような気がした。 そこまでの光景を後にしてエステリアは現実の世界に戻ってきた。就寝よりまだ数刻も経っていないのだろう、部屋の中は窓から差し込む月光によって青白く浮かび上がって見えた。 隣の寝台を見れば、羽毛布団が大きく隆起している。どうやらシエルはその寝心地の良さからか、布団の中に潜り込んでしまったらしい。 先程まで見ていた夢のことを忘れようと、エステリアはシエルに倣って、布団を引き上げる。丁度そのとき、不自然な影がエステリアの上に重なった。 「っ!?」 それがシエル以外の人影であると気付いた頃には、叫ぶ間もなく、エステリアは一瞬で口元を封じられた。いずこからより侵入を果たした刺客が、馬乗りになってエステリアを寝台に押さえつける。刺客の握ったナイフを月光が照らし、冷たく輝いた。 その鋭利な刃物と同じような瞳がエステリアを見下ろしている。刺客は壮年で細身の男であった。 「死ね」 抑揚のない声で、蔑むような目付きで、刺客は無情にもナイフを振り下ろす。叫ぶ事も、身動きも取れぬエステリアは、瞳をきつく閉じ、覚悟を決めた。 だが、次の瞬間、寝室に響き渡ったのは、轟音と、刺客の叫び声であった。 「っぐ、あぁっ!」 部屋が一瞬、真昼のように明るくなる。この点滅は刺客の背中で炎の塊が炸裂し、瞬時に消えたためだ。 「まったく、部屋を焦がさずに仕留めるのは随分と手間がかかりますわね!」 隣で眠っていたはずのシエルが、なぜか刺客の背後に立っている。エステリアは、背を焼かれた痛みに苦悶する刺客の隙を突き、身体を力いっぱいに撥ね退けると、シエルの元へ走った。 「どうして? 貴方、私の隣で……」 「ですから、お守りすると言ったはずでしょう? あの膨らみは偽者ですわ。ありったけの服とクッションを丸めて、眠っているように見せかけていましたの」 エステリアを後ろ手に庇いながらもシエルがにっこりと微笑む。そして唇に皮肉の色が浮かべ、未だ呻いている刺客に視線を戻した。 「あら、熱かったかしら? ごめんなさいね。でも背中を軽く炙った程度ですわ。致命傷ではないから、ご安心くださいませ」 恐ろしいことを、この上なく丁寧な口調で言うから性質が悪い。シエルの言葉は刺客の神経を逆撫でし、挑発するには充分すぎた。刺客は背中の焼け付く痛みに耐えながらも、向き直る。 「あら、向かってきますの? 私、こう見えても貴方を一瞬で丸焼きすることができますのよ? まぁ、焦げた人間なんて料理にも出せませんけど」 シエルが右手をかざした。ただの威嚇ではなく、必要とあれば容赦なく術を放つだろう。刺客はその屈辱に口元を歪め、シエルとエステリアを睨みつけると、急に踵を返し、窓へと躍り出る。 刺客は元々上の階から窓に垂らしておいたロープを掴むと、それに沿って滑るように伝い、階下のルーフバルコニーまで降り立った。 刺客の意外な行動に呆気に取られていたシエルは我に返ると、 「絶対に逃がしませんわ!」 凄まじい勢いで廊下へ飛び出す。 「私は刺客を追います! エステリア様は、シェイド様を頼るか、屋敷のどこかにお隠れになってください!」 シエルは言い終える前に駆け出していた。刺客は怪我を負っている。 どの道、遠くには逃げられない――そう考えての行動だ。 「え?ちょっと……!」 勇猛果敢な侍女はそう言ったものの、一人部屋に残されたエステリアにとって、ここはあくまでも他人の屋敷、しかも初めて訪れた場所なのである。逃げ隠れだの、シェイドを捜すだのできるはずもない。 なにより自分のことよりも、あの侍女の方が心配だった。随分と自信を見せていたシエルだったが、万が一刺客に返り討ちにでもされたら? そう思うと、こんなところで立ち往生している場合ではない。エステリアはシエルの後を追うように廊下に出た。 屋敷の奥は複雑に入組んでいる。刺客が窓から降り立った階下へと繋がる階段を探すだけで、一苦労だった。エステリアはほとんど自分の勘を頼りに、突き進んだ。階段を下りると、涼しい風が廊下を吹きぬけた。ルーフバルコニーはこの近くにあるのだろう。エステリアは風の道筋を辿る。しばらく進むと、半開きの扉があった。風はそこから入ってきているのだろう。扉の前に立つと、言い表せぬほどの不安と胸騒ぎがエステリアを襲う。この先にいるのは、刺客か、それともシエルか、それとも誰もいないのだろうか?もし、目の前にあの侍女が倒れている姿があったりしたら……? エステリアは恐る恐る、扉を開き、外に出た。 「……誰?」 扉の外に出るなり、エステリアは眉を顰めた。ルーフバルコニーで彼女が見たのは、シエルではなく、刺客を抱きすくめた大きな影と、この夜闇の中でさえ、爛々と輝く金色の双眸だった。その者は、意識を失った刺客の身体を後ろから抱きかかえ、薄く笑っていた。月明かりに照らされ、淡く光を反射する長い銀の髪と、闇夜に異彩を放つ、金色の輝きを湛えた瞳、そして女と見紛うほどの顔立ちに、エステリアは一瞬にして心を奪われた。その者が決して人間ではないことは一目でわかった。よく見れば、その者の耳朶は なによりその者の背には翼があった。ただし、美しき容貌とは裏腹にそれは黒く染まっていた。翼の風切羽は、下部にいくほど羽根が抜け落ち、蝙蝠のような皮膜に変化している。 まるで、どこかの絵巻物や壁画に描かれているような……堕天使という存在か、あるいは天使になれなかった悪魔と形容するに相応しい――そんな姿であった。 その者は凍りついたままのエステリアを気にも留めず、刺客の喉元に唇を近づけた。 途端、刺客の顔色が土気色に変色し、肌が乾いていく――その身体はあっという間に萎れた花のように干からびていた。 吸血? いや、そうではない。この美しき魔性はただ男の首筋に唇を寄せているだけなのだ。 ならば、刺客の生命そのものを奪いつくしているのだろう。糧を得た満足感に悠然と微笑むと、その者は遊び飽きた人形を放り投げる子供のように、刺客の死体を足元にうち捨てた。その一瞬の出来事に、エステリアは悲鳴を上げることすらできず、ただ、美しいこの妖魔に吸い寄せられるかのように、見入っていた。「エステリア様!」シエルの声に、エステリアは我に返った。「離れてろ!お嬢ちゃん! こいつは 続いて現れたガルシアはそう叫ぶと、バスタードソードを握り締め、勢いのまま妖魔に襲いかかる。剣は妖魔の姿を捉えている――ガルシアには確信があった。 普通の人間ならば、いや……例え魔物であっても、この剣戟を受ければ確実にその身を両断されていたことだろう。だが、 「なっ……」 バスタードソードの刃先は、妖魔の身を断つどころか、その親指と人差し指の間でしっかり受け止められている。妖魔は余裕の笑みを浮かべ、ガルシアの剣をゆっくりと押し上げていく。 相手は剣を持ってはいない。素手にも関わらず、それは剣と剣の競り合いのような感覚に思えた。 「くそ!」 ガルシアは一度剣を引くと、立て続けに大きく振りかぶった。だがガルシアが斬ったのは妖魔の残像にすぎず、石畳に叩きつけられたバスタードソードの音だけが闇夜に大きく響いた。不意に消えた標的の姿を追って、ガルシアは辺りを見回した。 「エステリア様!」 シエルの叫びにガルシアが振り返る。その表情が一瞬にして凍りついた。美しき妖魔はすでにエステリアの背後に回っている。 「逃げろ!嬢ちゃん!」 ガルシアが叫ぶのも空しく、エステリアは抵抗しない。 「覚えておくがいい」 妖魔の右手がエステリアの左の頬に触れ、首筋をなぞる。 「お前は私のものだ。必ず手に入れてみせる」 その言葉には聞き覚えがあった。エステリアは思わず顔を上げ、妖魔の顔を見た。 妖魔は薄っすら笑うと、両手を離した。と、同時にエステリアは右の腹部に焼け付くような痛みを感じ、その場に膝をつく。 「テメェ! お嬢ちゃんに何しやがった!」 ガルシアが再び妖魔目掛けて突進した。今一度剣を振り下ろしたものの、妖魔の姿が一瞬で淡雪のように溶けてなくなる。姿を消す際、散らした妖魔の黒い羽根が数枚、石畳に打ち付けられた剣を嘲笑うように空中を舞っていた。 「くそ! やっぱ、一筋縄じゃいかねぇってわけか……」 舌打ちするガルシアだったが、その口元には不敵な笑みを湛えている。それは因縁の敵との対峙に喜びすら見出している表情であった。 「……全く騒がしい」 興奮も冷めやらぬうちに、どこからともなく聞き覚えのある声がした。ガルシアが弾かれるように顔を上げ、声がした方向を見た。 「今度は一体、何事だ?」 ようやく事態に気付いたのだろうか、三人の前に疲れきったような表情のシェイドが姿を現す。 「シェイド! テメェ! もうちょっと早くこれねぇのかよ! 遅い! ったく、真っ青な顔色して出てきやがって、お前、血は足りてんのかぁ?!」 いきなり浴びせられた罵倒にシェイドは、反論する。 「仕方ないだろ、ここに来る前に、刺客を三人ほど斬り捨ててきたんだからな。大体、お前……勢いに任せて八つ当たりしてないか? 俺は元々こういう顔色だ」 「八つ当たりもしたくなるぜ! あいつが! あのオルフェが姿を現していたんだぞ? お前にとってあいつはミレーユの仇だろ?」 今は亡き女性の名を再び出されたことに、シェイドは若干、苛立ちを覚えた。 「俺自身があいつに敵わないのに、仇なんてとれるわけがないだろ」 「はっ、情けねぇこと言うなよ! お前は何のために魔剣を持ってるんだ?」 「いちいち俺に当たるな。ミレーユのことなら、もう俺の中では片付いた話だ。そんなことより、エステリアを心配した方がいいんじゃないか?」 シェイドが顎でエステリアの方を指した。エステリアはその場に座り込んだまま、瞳は呆然と虚空を見つめている。 「オル……フェ? あの人の名前はオルフェというの?」 心此処に在らず……そんな口調でエステリアが呟いた。「正確にはオルフェレス。この世の闇を司る魔族ですわ。彼を闇の神として崇める者もいますが、俗には シエルがエステリアを助け起こした。 「お嬢ちゃんとは相反する位置にいる妖魔さ。強いて言うならあちらは闇を統べる 「そう……オルフェレスというの……」 エステリアは今一度、心の刻み付けるように妖魔の名を呼んだ。どこか聞いたことがあるようなその響きに何故か懐かしさすら覚えた。 「おいおい、お嬢ちゃん、まさかあの魔族にまんまと魅入られたってわけじゃあねーだろうなぁ?」 「大丈夫、そんなことはないから。でも、凄く綺麗な瞳だった……。あんなの初めてよ。金色に輝いているの」 「綺麗って……お嬢ちゃん、いずれ神子様になるお前さんが魔族を褒めちぎってどうするよ?」 「でも……あまり悪い人にも見えなかったけど」 きょとんとした表情でエステリアが呟く。 「――重症ですわね」 シエルがきっぱりと言い切った。 「人間の肉を貪り、生き血を啜り、魂をも食らう――それが魔族というものですわ。その魔族に『いい人』なんていませんわ。あの者達は常に人間を誘惑し、堕落させることに長けているのです。きっと神子様は、あの金の瞳がもたらす蟲惑の術にでもかかったのですわ。エステリア様は、これから神子になろうとされている大事なお方。簡単に食われるようでは、困りますわ」 シエルが溜息をつく。 そのやり取りを聞いていたシェイドが、徐に近くに捨てられた刺客の死体の側に寄り、膝を折る。 「なにか気になることでもあんのか?シェイド?」 死体の様子を確かめるシェイドにガルシアが訊いた。 「間違いない。王宮でエステリアを襲ったのはこいつだ」 「おい! 本当かよ!」 シェイドが頷く。「こいつの衣服、派手に焼けている背中は別として、左腕の部分に少しだが、不自然に裂けた跡がある。多分、あの時俺が投げた短剣が掠ってできたものだろう。まぁ、死んでしまった今、首謀者の名を聞くこともできないが」 言いながらシェイドが立ち上がる。 「いい加減に今夜は解散だ。寝るぞ。この屋敷に潜入していた刺客は全て死んだ。他に追手がいたとしても、今日はもう襲ってこないだろう」 「絶対だろうな?」 ガルシアが訝しげにシェイドを見た。 「必要なら、見せしめに俺が斬り捨てた三人と、この死体をここに張り付けておけばいい。それだけでも充分、襲撃する気が失せるはずだろ?」 涼しい顔をして恐ろしい事を平気で口にする部下に、ガルシアは少しばかり顔を引きつらせて納得した。 「あ〜あ、失敗しちゃった。ヴァネッサったら、もっとマシな刺客を用意してよね。ねぇ、手っ取り早くお前の呪術で姉さまを殺すことはできないの?」 言いながら、アドリアはどっかりとベッドに横たわり、虚空に向って問いかける。それに応じるように王女の部屋にリリスの幻影が浮かび上がった。 「神子として未熟なまま殺したところで、なんの意味もありませんわ。王女様」 国王付きの預言者は妖艶な笑みを浮かべる。 「不思議ね。お父様に神子を手に入れろと言ったかと思えば……、私には神子を殺して力を奪えと言う。ねぇ、お前は一体私とお父様、どっちの味方なの? リリス」 アドリアの問いにリリスはしばし沈黙すると、悠然と答えた。 「私はお二人の味方ですわ」 その返事にアドリアは、目を丸くする。 「陛下は神子を自らの権威、つまりは『象徴』として手元に置き、またその恩恵を授かろうとされている。でもその神子が必ずしもエステリアでなければならないとは限らないのではなくて? そう思えばこそ、私は陛下と王女様のお味方をするのです」 「神子であるなら、側にいるのは誰でもいい――お父様がそう思っているとでも言うの? 嘘よ、お父様は『エステリア』という神子が必要なのよ。だって、 「だからこそ……貴方が新たな神子になればいい」 リリスの言葉にアドリアが起き上がる。 「そんなに御自分を卑下なさらないで。王女様は陛下が王妃の血統を重んじてエステリアを重宝していると思われているようですが……獅子の兄弟のお一人を父に持ち、運命の双子を母に持つ貴方様があのエステリアに引けを取るなど、私には考えられませんわ。陛下はいずれ世界を統べる王となるでしょう。その傍らにいるのはエステリアではなく、正真正銘、王の娘である貴方が神子として寄り添っているのであれば、これほど素晴らしい栄光と奇跡はございませんわ」 リリスは言い終えると恭しく跪いた。アドリアは満足げな笑みを見せる。 「でもお前といると、本当に楽しいわ。騒動の一部始終をここで見せてもらったおかげで、とっておきの『秘密』に漕ぎ着けることができた」 「シェイドの――ですか?」 「ええ。ただでさえ彼は隠し事が多すぎるんですもの。まさかあんな秘密を抱えていたなんて! でも面白いわ」 「そこまで喜んでいただければ私も本望ですわ。では、今夜はこれにて。お休みなさいませ、王女様」 「お休みなさい。またね」 消え行くリリスの幻影を見ながら、アドリアは何かを思い出したのか手を打った。 「そうそう! 忘れるところだったわ! 『役立たず』のヴァネッサも始末しておいて」 もうほとんど消えかけたリリスが頷く。往年の侍女の処分を冷たく言い捨てると王女は嬉しそうに床に就いた。 |
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