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Eternal Curse

Story-32.束の間の休息
シュタイネル公爵夫人、クローディアが夫であるジェラルド公を失い、未亡人となってからもう九年になる。
十六のときに降嫁して以来、十数年も満たずに迎えた夫のあまりにも早すぎる死は、クローディアを打ちのめすには充分すぎるものであったが、当初、クローディアは第二子を身篭ったばかりであり、まるで夫と入れ替わるように、翌年生まれた待望の男子は、彼女に生きる希望と活力を与えた。
第二子の名は、イザークという。
クローディアは、この息子は失った夫の生まれ変わりだと信じて疑わなかった。
息子のイザークには、シュタイネル公爵家の総領として――いや、『それ以上』のものを受け継ぐ器の持ち主としての徹底した教育を施してきたつもりだ。
幼いながらもイザークは、母のその期待に答えるべく、武術に、馬術、勉学にと常日頃から励んできた。しかし、それが祟ってか、元々丈夫な身体ではなかったイザークは、去年ごろから体調を崩し、病の床に臥している。

不愉快かつ極まりない王宮を離れ、クローディアが真っ先に向かったのは、 勿論、己が屋敷の離れにある、イザークの寝室であった。

クローディアに付き添った執事が、音を立てぬよう、細心の注意を払って扉を開く。
昼間であるにも関わらず、病人の眠りの妨げにならぬよう、窓を厚手のカーテンで覆った薄暗い寝室に入ると、クローディアは病床にある息子の寝台へと歩み寄り、その横に置かれた椅子に腰を下ろした。
「イザーク。お具合はどう?」
クローディアは横たわる息子の顔を覗き込む。その表情に謁見の際に見せた刺々しさは一つもない。
「うん……。今日は、大丈夫」
母の声を耳にしたイザークは、ゆっくりと目を開け、呟いた。
クローディアは安堵すると、青白くなった息子の頬に触れ、汗ばんだその灰色の髪を何度も梳いた。

イザークの容姿は、長女のユリアーナとは違い、クローディアの特徴を色濃く受け継いでいる。
それはどことなく、幼き日の兄、ヴァルハルトをも彷彿とさせた。
これこそが、正統なメルザヴィアの――いや、獅子王の血を持つ者の証だ。
クローディアは、固く唇を結んだ。
「大丈夫よ、イザーク。お前の病は必ず、お母様が治してあげる」
だから安心をし――クローディアは、イザークの額に口付けした。
しかし、イザークは不安な表情を浮かべ、弱々しい声で、母に尋ねた。

「ねぇ、お母様。僕、王様になるんだよね?」
「ええ。もちろんよ。どうして?」
「だって……さっき、使用人達が言ってたよ。従兄弟のジークがお城に帰ってきたって。だから僕は王様にはなれないんだって」
イザークの言葉を耳にしたクローディアは、腹の底から湧き上がった怒りを、その衝動を、臥せった息子の前で押さえ込むことに必死であった。

おのれ、不忠義者め――クローディアは、イザークの不安を煽るような事を洩らした使用人達を 呪った。後ほど徹底的に調べ上げ、その者らを必ず見つけ出し、腐った舌を引き抜き、身体は城壁の堀に討ち捨ててくれる。
この国の真の王になるべき人物は、英雄王を謀り続けるあの女が産んだ、黒髪の王太子ではない。
イザークこそ相応しいという事実を、身をもって教え、今後二度と世迷言を吐く者が出てこぬよう、見せしめてやらねば。
そんな物騒な考えを仮面の奥へと押し込み、クローディアは笑顔を作ると、イザークの手を握りしめた。
「イザーク。お前こそが次期メルザヴィア国王。ジークハルトなどではありません。この母がお前を王位につけるのです。必ずそうしてみせるわ。だから余計な心配は無用。お眠りなさい」
イザークを寝かしつけ、立ち上がろうとした矢先、
「お母様!お母様!」
ドタドタと大きな足音を立て、ユリアーナが部屋に飛び込んできた。
「ユリアーナ!静かになさい!そんなにうるさくしては、イザークが眠れないわ。まったくどうしたのですか?はしたない。いつものお前らしくないわ」
「あの女を、それからジークハルトを処罰して!」
クローディアの注意にも耳を貸さず、ユリアーナは今にも掴みかかりそうな勢いで、母の目の前まで詰め寄った。
「一体、どうしたの?ユリアーナ。あの小倅と何かあったの?」
「ジークハルトと連れの女が、この私に対して醜いなどという暴言を吐いて嘲笑ったのよ!」
ユリアーナの訴えに、クローディアの形相が変わる。いや、再び耳にした『ジークハルト』という名に、過敏に反応したという方が正しい。
「ああ、可哀想なユリアーナ。数多の美姫の中でも、群を抜いて美しいお前に、醜いとはなんたることを!あの小倅め、生まれも卑しければ、連れ立つ者もその身と同等の類とみえる」
瞼に王太子の姿を浮かべ、忌々しげにクローディアが呟いた。
「それで、小倅の他に、お前を馬鹿にした女の名はなんと?」
「女の名前はサクヤとかいうセイラン人よ!最も王家に近しいこの私を侮辱したのよ?ううん。それだけではないわ。あの女、この侮辱を外交問題にしてやると言った私に、平伏しもせず、このままメルザヴィアとセイランが戦になっても、構わないとまで豪語したのよ!」

傲慢な女だこと――話を聞きながら、クローディアが嫌悪を露わにした。
セイランという異国について、クローディアの中には、兄ヴァルハルトと共に旅に出た暁の神子サクヤの祖国という程度の記憶しかなく、聖戦後のセイランにおいては、ほとんど知識がない。
いや、興味がなかったというのが本音だ。
しかし、奇しくも、その暁の神子と同じ名を冠するセイラン人の女が、愛娘を侮辱したという。
その女がセイランでどんな地位にあるかは知らないが、この獅子の兄弟が治める国で、戦を煽り、紅の盟約を反故するような発言をするとは、なんとも許しがたい。
「ユリアーナ、その件は、全てこの母に任せておきなさい。お前を冒涜したその女も、あの小倅諸共に屠ってあげましょう」
「お母様……」
静かに寝息を立てる弟を尻目に、ユリアーナは母の頼もしさに心震わせ、壮絶に笑った。



ボリスに寝室を案内された後、暇を持て余したエステリアとシエルは、城内の散策も兼ねて二人で散歩に出た。
城から市街を一望できる回廊から、見下ろした光景に、二人は溜息をついた。
長い馬車での道のりに、その時は気にも留めなかったが、メルザヴィアは、市街を城壁でぐるりと囲んだいわば、城塞都市だ。
ボリスから聞いた話によると、メルザヴィアではこの城壁こそが、敵国の侵入を阻み、市民や王侯貴族を守る唯一の手段であり、この国がグランディアのように、天然の要塞を持たなかったがゆえの苦肉の策であったという。
「さっぱりわからないわ……」
市街から空へと視線を移し、エステリアは呟いた。
「なんなのよ、秘密って……もしかして、大事な話って、答え合わせなんじゃ?」
なにやらブツブツとぼやいているエステリアの顔を、シエルが心配そうに覗き込んだ。
「答えがなんですの?エステリア様」
「え?あ、いいえ、なんでもないわ、こっちの話……き、気にしないんで!」
怪訝そうに眉を潜めるシエルの前で、エステリアが話を誤魔化すようにバタバタと手を振った。
そんなエステリアの様子を見て、シエルがクスクスと笑い声をたてる。
「あの……私、変なこと言った?」
「いいえ、何も。エステリア様も随分と変わられましたね」
「え?」
「だって、カルディアに来たばかりの頃は、ガチガチに緊張していましてよ?随分と、打ち解けて下さるようになりましたね。ガルシア様のお陰かしら?」
そんなに変わったのだろうか?エステリアは首を傾げた。
確かにカルディアに着いた当初に比べれば、旅の道中で仲間の性格がなんとなくわかってきたお陰もあってか、緊張の度合いも少ない。
「もう少ししたら、賢者様に感化されて、エステリア様もズケズケと物を言うようになるかもしれませんわよ」
「ちょ、ちょっと冗談はやめて。私、さすがにあんな風にはなれないわ」
「こればかりはわかりませんわよ」
「だって、さっきの公女との一件だってそうよ、あんな肝が冷えるようなこと、私には一生かかっても絶対に言えないわ……」
「そんなに肝が冷えました?私は同じ女性ながら、権力にも媚びないあの方に惚れ惚れしましたわ。さすが祖国で『姐さん』と呼ばれているだけはあるな、と」
「そういう問題?聞いていて公女の方が、可哀想なぐらい傷つけられていたような気もするけど……」
「エステリア様……」
シエルが溜息と共に、肩を落とした。
「公女は自業自得でしてよ?先に私達を侮辱したあちらが悪いのです。ヴァルハルト陛下も仰っていた通り、神子は王族よりも偉いんですから、エステリア様は、もう少し威張っていてもいいぐらいですわ」
「でも、そういうのって、あんまり好きじゃないわ」
エステリアがはにかむような笑いを見せた直後だった。

「あら。こんなところにいたの?貴方達」
ユリアーナとは違い、ほんの数人の侍女を連れた王妃が、回廊にエステリアの姿を見つけ、顔を綻ばせた。
「先程はごめんなさいね。とても嫌な思いをしたでしょう?」
王妃は、エステリアの前まで近づいてくると、申し訳なさそうに言った。
「いえ。大丈夫です。王妃様」
そう、安心したわ――王妃は優雅な仕草で、胸に手を置き、息をついた。
「ここからの眺めは、どの回廊から見るよりも素敵なの。でもこうも壁に囲まれていたのでは……まるで鳥籠ね。雪に覆われると、粉砂糖をかけ過ぎたケーキみたいだけど」
王妃のあまりにも穏やかな口調と、その発想に、エステリア達はぽかんと口を空けている。
「貴方達、カルディアからここまで来たようだけど、シェイドが失礼なことをしなかったかしら?」
「あ、はい。殿下には、この国を訪れるまでずっと護っていただきましたので、感謝しています」
「そう、それはよかったわ。あの子は、幼い頃から人の顔色を伺ってばかりの性格だったし、その責任は私にもあるんだけれど……そのくせ、嫌いな子に対しては、とても攻撃的になるから、どんな大人になっているか、わからなくて心配だったの。でもよかった、貴方達には、直接、危害は加えてないのね?」
答えにくいことを、あからさまに尋ねるところは、やはりシェイドの母親である。
「は、はい」
「ありがとう、貴方達。これからもあの子とは仲良くしてあげてね」
王妃はしっかりとエステリアの両手を握ると、再び侍女達と共に、回廊の奥へと消えた。
「なんだか、浮世離れしているというか……本当に妖精みたいなお母さんね」
「そういうところに陛下も惚れたのではないでしょうか?陛下は英雄として若い頃から、血生臭いことばかりに関わっていらっしゃったようですし」
「素敵なお母さんなのに、なんで苦手なの?」
王妃がいなくなった回廊で、ぽつりと洩らすエステリアに、シエルが再び眉をしかめた。




シュタイネル公女ユリアーナと王太子ジークハルトことシェイドが、子供の頃からの犬猿の仲であることは、この城では周知の事実である。
最もそれが決定的になったのは、十二年前、シェイドがカルディアへと発つ直前に起こった出来事だ。
この日、シェイドは自分と一つしか変わらない従兄弟と、鉢合わせし、いつもの如く、口喧嘩になった。母親の影響もあってか、やたらと他人を、とりわけ自分を見下したユリアーナの態度は、幼いシェイドを不快にさせた。なによりシェイドはこの従兄弟が、常日頃から似合いもせぬドレスや靴、帽子などで着飾り、自慢することが鼻についていた。
いい加減にうんざりしたシェイドは、ついに禁断の一言を口にしてしまったのである。
「どんなボロ人形でも、お前みたいに酷い奴はいるもんか!」
子供とは正直で残酷である。溜まりに溜まった不満を爆発させたシェイドの一言は、自らを『妖精並みに愛らしい』だと思い込んでいたユリアーナにとって、衝撃的であった。
そして怒り狂ったユリアーナは、仕返しに、シェイドをとことん傷つけるための『とっておき』の言葉を、ぶつけてきたのだ。

「お前の母親の方がよっぽど酷いわよ。だって、どこかの貴族の養女だったくせに、この王室にお嫁に来たんだから!どんな身分で、どんな血筋かもわからない女が、この国の王妃になるなんて!信じられない!考えただけで気味が悪いわ!ああ!恐ろしい!」
そしてユリアーナは得意気に続けた。

「そんな女を妃に選んだ伯父様も、本当に可哀想!もちろん!お前もよ!ジークハルト!お前のせいでメルザヴィア王家は腐ったみたいなものよ!お前なんか、さっさと死んじゃえ!」
凍りついた表情のシェイドを他所に、ユリアーナは勝ち誇ると、高笑いした。

「うるさい!父上を、母上を馬鹿にするな!」
両親を侮辱されたシェイドは、ユリアーナに掴みかかると、その場に突き倒した。
「な!なによ!痛いじゃない!ジーク……キャッ!痛っ!」
睨みつけながら身を起こそうとしたユリアーナに、反抗する隙すら与えず、シェイドは従兄弟が綺麗に結い上げた髪を掴み、廊下を引きずった。
あまりの痛みに泣き喚くユリアーナに
「お前の声なんか聞きたくない!黙れ!」
シェイドは一喝すると、ドレスのフリルを引き裂いて、ユリアーナの口に突っ込み黙らせる。
そしてシェイドは近くの部屋まで辿り着くと、鏡台から鋏を見つけ出し、従兄弟にとって自慢の一つであった髪を、ドレスをズタズタに切り裂いてしまうという暴挙に出たのだ。

その後、この一件は公となり、騒ぎとなった。
娘を溺愛するクローディアは、即、王宮へと乗り込み、烈火の如き怒りを国王夫妻にぶつけた。
無論、ユリアーナにも非があるのだが、このときばかりは、ヴァルハルトも厳しくシェイドを叱り付けた。
仮にも一国の王太子が、どんな理由があれ弱い子供を、女の子を傷つけるなど恥ずべき行為である――二度とやってはならない、と。
どうかそんな酷いことをしないで――ソフィアも涙ながらに息子に訴えた。
幼いシェイドは、父親の言う事も一理あるし、母親を悲しませることが、何より辛かったから、一応反省はしたが、それでもどこか納得のいかないものがあった。 たとえ従兄弟であろうとも、王族にあのような暴言を吐くことは不敬罪に値する。 まして、あの従兄弟は両親を冒涜したのだ。場合によっては死刑も免れない。

自分は両親の――母の名誉を守ったというのに、どうして叱られなくてはならないのだろう?
国王の自室を後にしたシェイドは、話が終るまでずっと待っていてくれたボリスに、その不満を洩らした。話を聞いたボリスはシェイドを締め付けるほどに、きつく抱きしめた。

「殿下!殿下は侮辱された国王夫妻の仇を討っただけのこと!なにも間違ってはおりませんぞ?
あの公女、不敬罪を働いておきながら、その首が胴に繋がっているというだけでも感謝せねばならぬのに、王室に母親を乗り込ませるとはなんたることか!ご安心くだされ、殿下、誰がなんというと、このボリス、殿下にお味方いたしまする!」
その時、シェイドはこの忠臣の肩で、悔し涙を拭ったことを覚えている。


「ジーク?」
「あ、はい?」
ヴァルハルトの呼びかけに、思い出に耽っていたシェイドは、ようやく顔を上げた。
この日の晩餐は、国賓を迎えての会食とは違い、国王夫妻と王太子のみで執り行われた。
「一体どうした?まるで心此処に在らずという感じではないか」
ヴァルハルトは食事の手を止め、軽く嘆息した。
「いえ、その名で呼ばれるのは、久しいものですから、つい」
「確か、カルディアでは『シェイド』の方で通していたな」
「はい。もうそう呼ばれることに慣れてしまいました」
視線を合わさずに答えるシェイドに、ヴァルハルトは怪訝そうに見つめた。
「十二年ぶりの再会だから、親子水いらずの晩餐を、と思ったのだが、お前はあまり好んでないらしいな」
両親を前に、畏まって食事など、シェイドにとって苦痛以外の何物でもなかった。 特に父親がかもし出す、この緊張感と空気がよりいっそう、気分を重くする。
こんなことなら、何か理由をつけてでも、ガルシアを隣に連れてくればよかった――シェイドは心底後悔した。かの英雄王に心酔している彼ならば、会話も弾むことだろう。

「そんな事はありません」
一応、否定してみせるシェイドであったが、ヴァルハルトは『嘘を言うな』といわんばかりに、シェイドの前に置かれた皿に視線をやった。
「喜んでいる割には、会話も食事も進んでいないではないか」
皿にはメルザヴィアの郷土料理とも言える、豚すね肉を長時間かけて煮込んだものが載っていたが、それは端だけがナイフで削り取られ、付け合せの酢漬けキャベツ(ザワークラウト)も、一口しか手がつけられておらず、その真横に添えられたジャガイモなどほとんど『無傷』である。
確かに両親との晩餐には憂鬱なものがあるが、食が進まないことに関しては、全くの別問題だ。
また『食欲』や『睡眠欲』が一切失せる時期が、徐々に迫っているだけの話なのだが、これを説明しようものならば、ただちに医者を呼びつけられ、それこそ明日からこの国に長期滞在することになってしまう。

「そなた――もしや……?」
何か言いかけたヴァルハルトの声はソフィアによって遮られた。
「ヴァルハルト、あまりシェイドを苛めないで。十二年ぶりに私達に会ったんだから、きっと何から話していいかわからないのよ。ああ、わかったわ、シェイド、もしかして貴方、ジャガイモが苦手なんじゃない?」
これまた突拍子もないソフィアの発言に、調子を狂わされたヴァルハルトが、納得いかないような面持ちで、眉間に皺を寄せた。
「そうだ!明日からは、貴方のお友達も晩餐に招待すればいいのよ。そうすればもっと打ち解けた会食になるわ!」
「はぁ。母上がそう言われるのなら、明日はあの者達も呼びましょう」
「あの神子の女の子、とても可愛らしい子だったわ。大事にしてあげなさいね」
何故、この会話からそんな結論に至るのだろうか?
王妃のこういったところは、カルディアにいる養母、ソニアに通じるものがある。
しかし、そんなこと、今はどうでもいい。
そもそもこの晩餐で、自分が切り出すべき会話は、こんなものではないはずだ。
神子の証――至宝の一部を賜るために、ここにいるというのに。肝心なことは何一つ言えず、そのまま遠退くばかりである。

「謁見の後、またユリアーナとひと悶着あったようだが?粗相はなかっただろうな?」
「はい。私というよりは連れが、公女と些細な口論を起こしまして、その場は収まりましたが、明日以降、また叔母が城に乗り込まないとも限りません」
口論の内容は説明するまでもない。正直に話したところで無駄だ。どうせ後日、クローディアが話の内容を大きくして、国王夫妻に難癖をつけにくることだろう。
それでもソフィアはシェイドがかつてのように、従兄弟を傷つけなかったことに、安堵したような表情を見せていた。
その傍らで、クローディアの話題になった途端、ヴァルハルトの顔が一段と険しくなる。
「まったく、クローディアには降嫁など進めず、いっそ国でも持たせてやればよかったのかもしれんな」
思いつめる国王に、いつになったら、本題に辿り着けるのだろうか――シェイドは疲れたように天を仰いだ。

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