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EternalCurse

Story-113.嫉妬
その頃、紅蓮の巡視団の一員であるケイン・ホフマンは、苛立たしげに街路を闊歩していた。
「なんであいつなんだ……」
あいつ――とは、親友であったウォルター・バーグマンの事である。
提督のために身を粉にして尽くしてきた自分を差し置いて、ベイリーは何故か娘の伴侶として、妻帯者であるウォルターを選んだ。
また、自身の想いを知っておきながら、ネリーとの縁談をあっさりと受け入れ、グレイスとの離縁を進めるウォルターへの憎しみは、ケインの中で日に日に募るばかりであった。
あの男はとりわけ権力や地位といったものにを、貪欲に求め、媚びる。成り上がるためならば、どんな手段も選ばない。勿論、野望ためなら友情や、義理と人情などというものはすぐさま切って捨てるだろう。
なんとしても、あの縁談を反故にしてやりたい――そんな醜い感情に支配されるがまま、ケインは裏切り者であるウォルター失脚の策を練っていた。

「もし……」
険しい顔で石畳みを踏みしめていた時、ふいに鈴の音のように可愛らしい女の声がした。気が付けば、真横に簡素な馬車が止まっている。下ろされた窓からこちらを覗いているのは、まだ少女の幼さを残した淑女であった。その隣には母親と思しき者が同乗している――ジュリエットとコーデリアだ。
「少々、お尋ねしたいのですが、ウォルター・バーグマン様の御邸宅はどこでしょうか?」
またウォルターの話か――ケインは間の悪さを呪った。
そんなことは御者に聞けばいいだろう――ケインは思わずそう口にしそうになったが、この淑女といい、御者といい、見慣れぬ顔だ。
もしや他国からこの地を訪れたのだろうか? 他国の娘が何故、大貴族の別荘が建ち並ぶ二の郭にいるのだろう?――ケインの中で次から次へと疑問が湧き上がる。

「あの……貴方は一体……?」
「あ、ごめんなさい。申し遅れました。私はジュリエット・シーニュと言います。メイヤールの地より、陛下を頼ってここまで来ました」
恥らうようにジュリエットは言った。俯き加減で頬を染める様は、なんと愛らしいことか。ケインは思わず、ジュリエットに見入っていた。
「私は黒曜の艦隊、紅蓮の巡視団に所属しております、ケイン・ホフマンと申します。ウォルターに一体何のようで?」
「少し……お願いしたいことがありまして……」
「貴方のような淑女が直々に会いに行くというのですか? 使いを出せばいいものを……何故?」
「使いの者のほとんどは、故郷に置いてきましたので……」
「姪は、いずれは国王陛下の寵姫になります。そうなれば、もう二度と他の殿方に会うこともままなりません。ですから今のうちに……」
よほど先を急いでいるのか、コーデリアが早口で説明する。
「国王の、寵姫?」
その言葉を耳にした途端、ケインの目が輝いた。
「ちょっと待って、伯母様。それは言いすぎですわ。私のようなものの事を……本気で慈しんでくださるとは到底……」
「何を言うのです、ジュリエット。お前も聞いていたでしょう? 陛下がお前に寵姫として公妾ブリジットに継ぐ座を与えると仰せであったのを」
「ブリジットに、継ぐ座……?」
ケインの心は躍った。国王があの公妾以外に新たな寵姫を迎え入れようとしている。それもただの愛妾ではなく序列はブリジットに次ぐ。それはすなわち、この娘が、ブリジットと同じく、政に影響力を持つことを意味していた。
ベイリー提督は、娘が王妃の侍女という立場を利用し、ウォルターを近衛兵として推すつもりである。そうすることで国王一家と密接な関係を気付き、生まれた子が女であったならば、ローランド王太子の許婚にして、王族の一員へと成り上がるつもりだ。
させてたまるか――ケインの中でどす黒い感情が渦巻く。ベイリーの裏をかき、この娘を利用する手立てを考えた。
「ウォルターは今、自分の屋敷にはほとんど帰っていないはずです。ベイリー提督のお屋敷か、ディーリアス通りの酒場に通っていることでしょう。そこに行けば会えるかもしれません。ウォルターがどのような容貌の人物か、わかりますか?」
「ええ。お顔ならば、この絵にて」
ジュリエットが差し出した写し絵を見て、ケインは愕然として、言葉を失った。いや、その後、身体の奥底からこみ上げてきたものに、全身が震えた。心から笑いが止まらなかった。
どうやら神はウォルターではなく自分の味方らしい。ともすれば、目の前にいるこの淑女こそが、自分にとっての勝利の女神に等しい。
「この写し絵、私に貸していただけますか?」
「え?」
唐突なケインの申し出に、ジュリエットが戸惑う。
「悪いようには致しません。必要ならば、私がウォルターを貴方の前に連れてきてもいい。その前に貴方に、とっておきのお話をお聞かせいたしましょう。ですがまずは、お礼をさせて下さい」
「お礼……ですか?」
「ええ。お礼です」
ベイリーの、そしてウォルターの思惑を一瞬にして握りつぶす手段を得たケインは、この女神へのせめてもの礼に、懐から小さな瓶を差し出した。
「これは?」
唐突に渡された瓶を不思議そうに眺めながら、ジュリエットは尋ねた。
「これさえあれば、国王陛下のお心を永久に射止めることは確実です。なんせ妃殿下も用達のものですから」
ケインはこの勝利の女神に、満面の笑みで答えていた。




陽が高く上った頃、ルーベンス教会では、治療の甲斐もあってか、サクヤは上体を起せるまでに回復していた。
「お怪我の調子はいかがでしょうか?」
司祭としての仕事がひと段落したのか、ディオスがルーシアを伴って再び部屋を訪れた。
「今朝よりは随分と良くなっています。ただ、まだ歩行は無理のようですが」
サクヤに代わってシオンが答えた。

「そうですか。もし、よろしければ、今からでも食事を運ばせますが? さぞやお腹も空いていることでしょうし」
「……何から何まで、心遣い、感謝する。だが、生憎今は何も口に入りそうにない」
ディオスの厚意を丁重に断りながら、サクヤはちらりとルーシアを見た。即座にルーシアは視線を逸らす。
「何故、貴殿は成り行きで担ぎ込まれただけに過ぎない私に、ここまで良くしてくれる?」
「どのような理由があれ、この教会に頼ってこられた方を無碍に扱うことなどできません」
サクヤの問いに、ディオスは、はっきりとした口調で答えた。
「きちんとした食事が無理なら、せめて薬湯ぐらいは召し上がってください。飲まず、食わずでは治るべきものも治りませんよ」
「でしたら、私が薬湯を作って参ります」
即座にルーシアが反応を示し、申し出た。
「いいえ。他の者に頼むことにします。ルーシア、貴方はまだ子供達の世話も終わってないでしょう? それにもう少ししたら、カーター夫人がいらっしゃるはずです。おもてなしの準備をしてください」
カーター夫人とは、この教会に定期的に寄付を行い、慈善活動に熱を上げている富豪の一人である。
「ですが……!」
悲痛な表情を見せたところで、ディオスにはルーシアの顔を見ることができない。
「白湯さえいただければ、私が薬湯を作ります」
シオンがルーシアの言葉を遮る。
「では、是非そうしてください。聞けば貴方は薬師であるとか。このお方の身は貴方が一番お分かりでしょう。ルーシア、台所へ案内してあげなさい」
「でも……」
駄々をこねるようなルーシアに、ディオスは軽く溜息をついた。
「ルーシア、私は、このお方に、お話しておきたいことがあるのです。わかっておくれ」
それは、実質、ルーシアに席を外せと言われているようなものだった。
「なら、案内していただけますか? ルーシアさん?」
追い討ちをかけるようなシオンの言葉に、ルーシアは、
「はい。ではついてきてください」
と無難に答えたが、その言葉の中にはどこか怒りのようなものが含まれていた。



ディオスに促されるまま、部屋を出たルーシアはシオンを伴い台所へと向かっていた。その足取りは酷く重い。ディオス様は私を追い出してまで、あの女に何の話があるというのか――そう考えるだけで、胸を引き裂くような、言葉に現せぬ感情が沸々とわきあがっていた。
あの女が目覚めた後、間が悪いことに、目にした恋人との戯れは、まるで、この世にあらざるもののように思えた。あの女は魔性だ。二人きりになった後、ああやって、ディオスを誘惑する気なのでは?
「ルーシアさん?」
「あ、はい……」
シオンの声にルーシアが我に返った。
「一体、どうしたんですか? 顔色悪いですよ?」
「い、いえ、なんでもありません」
立ち止まったルーシアが頭を振った。正直な話、子供らの相手も、慈善事業に熱心な夫人の相手も、他の修道女に任せておいてもなんら問題はない。あの時、ルーシアはディオスに、そう断りを入れるつもりであった。
だが、この男が、自ら薬湯を作りたいなどと言い出したがために、いよいよあの場から追い出される羽目になったのだ。そう思うと、ルーシアは目の前の薬師が憎らしく見えた。

「大怪我をされた、あの方は貴方の大事な恋人なのですね?」
恋人であったらいい――そのような思いがルーシアの中を交錯する。そうであれば、あの女がディオスを奪うこともないのだから。
「いいえ。恋人などではありません。私には妻もいましたし、子もおります」
シオンからの意外な答えにルーシアが目を見開く。それと同時に、妻子ある身で、あの女と、今にも不貞を犯すような真似をしていたというのか――ルーシアはますますシオンに嫌悪感を募らせた。
「何をそんなに驚かれているんですか?」
きょとんとした表情で尋ねるシオンを、ルーシアは軽蔑も含んだ眼差しで見上げた。

「そういえば、ルーシアさんは以前、神子になにやら話しておきたいことがある、と仰っていましたね。もうじきこちらに神子が尋ねてくると思いますが……」
「ああ、あれならもう忘れてくださいませ」
ルーシアは素っ気無く答えた。
この神子の一行に教える価値すらないように思えたからだ。あの女とこの男の一件を眼にすれば、彼らが王家から不当な扱いを受けているのも、なにやら頷ける。
そもそも私にとっての神子は――いや、もはや、言うまでも無い。
今のルーシアには、この神子の一行よりも、ディオスの身を案じる方が大事だった。
彼に付きまとうベアールのご落胤という噂は、ディオスの耳には入れないようにはしているが、日に日に大きくなっていく。万一、彼がベアールの庶子であれば、現国王がその存在を許すことはないだろう。処刑とまではいかないだろうが、この国を追われる可能性は充分にある。
だが、もし王家に不満を抱く者らがディオスを祭り上げ、暴動によって、国王一家が亡き者とされたなら? 彼はそのまま王座に据えられ、摂政の傀儡となるだろう。
どちらにせよ、ディオスがルーシアにとって、遠い存在になってしまうことに変わりはない。ルーシアはディオスに降りかかる火の粉を全て払う気でいた。この教会に通い詰める慈善事業に熱心な夫人らにしてもそうだ。
盲目ということを省けば、ディオスはまだ若く、端整な容姿の持ち主だ。
多額の寄付金を持って現れる夫人らが、どれだけ彼に色目を使ってきたことだろう。彼女らの目的は、夫の目を盗んで火遊び相手を探すことであり、慈善事業などただの建前にすぎない。その偽善者ぶりにルーシアは毎回、吐き気すら覚えた。
「私欲のために神に仕えても、何の願いも叶えてはくれませんよ?」
ルーシアに漂う物々しい雰囲気を察知したのか、シオンが言った。
「なんのことでしょう?」
「ご自分が一番わかっていらっしゃるのでは?」
「貴方は神子のご一行として最初に出会ったときとは、随分と印象が違うお方なのですね、言いがかりもいいところですわ」
苛立つようにルーシアが返した。
「私も貴方の印象が随分変わって見えますよ。今の貴方なら、サクヤを絞め殺すぐらいの力で包帯を取り換える事ぐらい、平気でやってのけそうです」
皮肉を込めて言うと、シオンは笑った。
ディオスの元を追い出された後の、ルーシアのどこかふて腐れたような態度を見れば、あながちサクヤの言い分も間違ってはいなかったのだと、思える。
「ですから、そういうのを言いがかりと……!」
言いかけて、ルーシアは口ごもった。こちらを見下ろすシオンの紫の目の奥に潜む、冷たい銀色の炎を、一瞬だけ垣間見た気がしたのだ。ルーシアは本能的に、背筋が凍りつくような感覚に捕らわれた。

「ねぇ、どうしたの? ルーシア?」
「どうしたの?」
永遠のように長く思えた不気味な緊張感を解くように、急に男女の子供の声が聞こえた。グレイスと共にこの教会を訪れた際に出会った、ライアンとタニアだ。
「メイヤールの方から、司祭様や軽業師の人達が、この街に来たみたいだよ」
タニアが嬉しそうに手を上げて、報告する。
「メイヤールの方から?」
――セレスティアに滅ぼされた彼の地から逃れてきた沢山の難民を、グランディアは受け入れることになるだろう。ルーシアは以前、ディオスに語ったことが、現実味を帯びてきたことを実感した。
「ねぇ、ルーシア、見てきてもいい?」
目を輝かせ、子供達二人はこちらを見上げている。
「自分の仕事が終わったら、好きにしていいわ」
ルーシアは腰に手を置き、やれやれと言わんばかりに答えた。どうせ止めたところで、教会を抜け出してしまうのがオチだ。ルーシアからの許可が下りると、子供達はせきを切ったように駆け出した。
「でしたら、私もこの辺で。台所もすぐそこのようですし、案内していただいてありがとうございました」
何事もなかったかのような表情で、シオンは微笑むと、足早に台所の方へと姿を消した。
急に人気のなくなった廊下に一人佇む羽目になったルーシアは、溜息をついた。
今から他の子供達の世話、『偽善者』のカーター夫人の相手もしなくてはならない。そう、ディオスとは直接関係のない、それも気に入らないことばかりが山積みであった。




「どうも外が騒がしいようですね」
ディオスがぽつりと呟いた。
「随分と、耳がいいんだな」
「ええ。この目を補うためか、耳は人一倍、研ぎ澄まされておりますよ」
サクヤの声がする方向を向いて、ディオスが微笑んだ。
「人払いをしてまで、話したいこととはなんだ?」
「貴方から神子殿に伝えて欲しいことがあるのです」
「私に?」
「ええ。今からお話することは、ある方から受けた二つの懺悔なのですが、そのうち一つはルーシアも既に知っていることで、彼女も、神子のご一行に打ち明けるべきか否か、迷っていたようです。もう一つの方は、私だけが聞いた話で、ずっとこの胸に閉まってきたもので……」
「あの修道女にさえ、聞かれたくないもの……ということだな?」
「ええ」
ディオスは軽く頷いた。
「その懺悔とやらを知ることによって、神子に何の益があるというのだ?」
「益になるかはわかりません。ですが、神子殿にとって、ご自身を守り、この国を救う切り札になればと……」
「この国……切り札?」
「私があるお方から聞いたのは……僭王ベアールの落胤――庶子について、です」
まさか『ご落胤』と噂されている当人の口からその言葉を聞くことになるとも知らず、サクヤの唇は驚きで微かに戦慄いていた。





「王都の空気は気に入ったか?」
庭園の花々を優しく愛でるジュリエットの肩を引き寄せながら、ルドルフは訊いた。
「ええ。大変気に入っております。陛下にはこれほどまでに良くしていただいて……」
ジュリエットが国王の肩に頭を預け、俯いた。
「そなたは私の寵姫となる娘だ。これぐらい与えて当然であろう? ときに、そなたは歌劇は好きか?」
「ええ。大好きですわ」
「では、聖誕祭に上演される演目に、そなたを招待しよう」
ルドルフが言いながら、軽く手を叩くと、近習を呼びつけた。近習は大きな長方形の箱を抱えてジュリエットの前に現れると、恭しい仕草で蓋を開ける。そこに収まっていたのは、白絹に白薔薇の刺繍と真珠をふんだんに縫い付けた美しいドレスだった。
「まぁ……このような豪奢なもの……見た事がありませんわ」
ジュリエットが感嘆の息を洩らす。
「聖誕祭の折には是非、そなたに着てもらいたい」
「嬉しゅうございます。陛下の度重なるご厚意、なんとお礼を申し上げれば良いか……」
ジュリエットは目を潤ませた。
「陛下、私からのせめてものお礼です。グランディアにいる親類を頼って、メイヤールより非難してきた者達の中に、司祭や大道芸人がおります。その者達に慰問をさせたいのですが、お許しいただけるでしょうか? そのことによって、少しでもセレスティアの脅威に怯える人々の支えになればと……」
「構わぬ。許可を出そう。それにしても、故郷が惨事に見舞われているというのに、グランディアの民を思いやるとは、そなたは本当に心根の美しい娘なのだな」
ヴィクトリアとは大違いだ――ルドルフは心の中で小さく呟いた。
「陛下、このようなときになんですが、もうしばし、お話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「何だ、申してみよ」
「はい。私の故郷、メイヤールには、グランディアにも伝はなく、未だ彼の地に取り残された人々もおります。そのメイヤールよりしばし南下した地に放置されたバーグマン家の領地があるのですが……」
「放置されたバーグマンの領地……だと?」
「ええ。故郷が落ち着くまで、せめてその地を貸していただけぬものか、相談すべく、今朝方、バーグマン家の当主様を二の郭で探しておりました」
「そなた自らそのようなことをせずとも、私に言えばすぐにでも取り成してやったものを……」
「そんな……陛下のお手を煩わせるわけにはいきませんわ……」
ジュリエットは国王の手に自分の手をそっと乗せると、話を続けた。
「ですが、一つ奇妙なことがございますの……」
「奇妙なこと?」
「ええ。実は……」
ジュリエットは周囲の目を確認した。ルドルフがドレスを持ってきた近習を下がらせると、ジュリエットは安心したように、そっと耳打ちした。
「……それは、まことか?」
ルドルフは弾かれたように顔を上げた。
「ええ。それから、今のとは別のお話なのですが……」
ジュリエットは思い出したように胸元を探ると、ケインから譲り受けた瓶を取り出した。
「この瓶の中身はいかがして使うものなのでしょうか? 聞けば妃殿下もご利用されているとか」
ジュリエットから瓶を受け取った国王は、スーリア語のラベルを目にするなり、表情を強張らせた。
「ほう……アレも、これを、か」
心なしか、ルドルフの声が低くなる。
「陛下……?」
「ジュリエット、そなたは一体、これを誰から譲り受けた?」
「赤い服を着た、活発なお方ですわ。確か、ケイン・ホフマン様と仰っていたかしら?」
「ケイン・ホフマン……ベイリーの部下か。ジュリエット、これはそなたには必要のないものだ。私が預かろう」
そこまで言うと、国王は何か思うところがあったのか、ジュリエットから身体を放した。
「残念だがジュリエット、今日はここまでだ」
「お仕事でございますか?」
名残惜しそうに見つめるジュリエットの頬を撫で下ろし、ルドルフは笑った。
「そのようなところだ。なんせ、躾をし直さねばならぬ、犬どもが沢山おるゆえな」
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